俺はもう“ちゃん”付けしない、安室奈美恵の事を。

と同年代の人であれば、中学高校時代に『SWEET 19 BLUES』アルバムジャケットを目にした事がない、という人はかなり少ないんじゃないかと思います。 私も実際、学校や友達の家でよーくこのジャケットを見かけました。

今改めて聴くと、ジャパニーズR&B小室哲哉的解釈が見られたりして(それが果たして良かったのかどうかはまぁ置いといて)、なかなか面白いアルバムになってるんですけども、ただ僕は持ってませんでした。あまのじゃくだった、というのもあるんですが、なんだかチャラチャラして見えたんですね、あの頃は。アイドルとしての「あむろちゃん」というか、ブームを牽引する可愛い女の子、ってイメージが強くて、ハマるまでには行かなかったというか(とか言いながら聴いたり歌ったりはしてたんですけども)。

それから何年か後、確かZAZEN BOYS向井秀徳さんか誰かが「この曲を安室ちゃんに歌ってほしい」みたいな事をどっかで言っていたのを読んだのをきっかけに(いつもあやふやですいません)、ちょっと試しに聴いてみるか、という気持ちで『Queen of Hip Pop』というアルバム(よく考えたらえらい挑戦的なアルバムタイトルですけども)を聴き、「お、かっちょいいじゃないの」とその後はちょいちょいその活動を追い始めた、まぁ平たく言えばファンになった、という感じであります。 前に抱いていた”チャラチャラ”した感じは”華”に昇華されていたし、自身の波乱万丈な半生を飲み込んだ逞しさが地に足がついたダンスと歌に反映されているし、あーちゃんと「エンターテイナー」だなーと。

で、昨年発表された新作『Uncontrolled』ももちろん購入しまして、一時期はアホほどにヘビロテしてたんですが、それこそ『SWEET 19 BLUES』と聴き比べてみると、(もちろんトラックメイカーやプロデューサーの変化というのが大きいんですが)その逞しさは強度を増しているように感じました。子ども(=あむろちゃん)から大人(=安室奈美恵)への変化、だけでは片付けられない何かがあるというか。

大きいのは、本人の声の変質、があるかなと思います。単純に歌がうまくなっただけではなく、声による表現の引き出しが増えていて、スウィートな曲の”女子”感とハードな曲の”女”感、そしてストレートな”人間”としての声など、曲によって色々な表情が見られる。 また、ダンスやその時の表情などを見ると、かつてのアイドル的な存在から”アスリート”への変化、というのも感じられます。

おそらく(全くもって推測の域を出ないものですが)彼女の中にも、かつてあった「アムラー」というムーブメントが引き起こしたそのシンパの肥大化と「あむろちゃん」というキャラクターの空洞化、という葛藤があって、そこから彼女自身が一歩抜け出そうと努力した結果が今現れているような気がします。それが逞しさであり、大人なんだろうと。

だとすると、彼女の事を「あむろちゃん」と呼ぶのは少し憚るような気もします。これからは、ムーブメントの先頭に立つ可愛い「あむろちゃん」ではなく、アーティストとしての力強さを持ったかっこいい「安室奈美恵」を聴いていきたいです。

(余談且つ余計なお世話ではあるんですが、力強さを増した彼女の唯一の弱点は「基本的に日本語詞の曲が多い」所なような気がします。日本語だとどうしてもエッジが弱い。もっと英語詞で歌ってほしいなぁ、と思ったりします)