「ここにいるあなた」から、「ここにいない誰か」へ

さて、すでに1ヶ月ほどが経過してしまいましたが、昨年の12/21に行われた中村一義のデビュー15周年記念の武道館公演「博愛博2012」に行って参りました。

よくライブのお供をする友人から誘われ、サニーデイ・サービスくるりも出るという事で一も二もなく「行く!」と決めまして、更にその友人から最新アルバム『対音楽』も借り、万全を期して臨みました(その友人は、当日の仕事が長引き、終盤になってようやく武道館に辿り着く、という何とも言えない感じにはなりましたが)。

詳細なライブレポートは専門誌やファンの皆さんが色んな所で書いてると思いますんで省略しますが、一言で言うと、素晴らしかったです。 初期から『対音楽』まで、ヒットパレードとも言うべきセットリストで、様々な形態で演奏される(例えば、くるりの岸田さんがギター、佐藤さんがベース、100sの玉田さんがドラムをやって、中村一義がボーカルを取る、なんて形とか)それらの楽曲は会場の熱気を煽り、多幸感が会場に溢れんばかりでした。

ただ正直に言いますと、ライブが始まるまでは不安も多少は感じていました。以前、当ブログにて「中村一義がつぶやいてた頃」と題した記事を書きましたが、近年の中村一義「叫び」から感じられる”無理してる感”がライブでどう出るのか、付いていけるだろうか、という不安です。 実際、ステージ中央でマイクを持ち、バックを固める先輩・後輩・盟友達の演奏に合わせて体を揺らす中村一義は、不恰好でした。様になってない。 ただ、そんな不恰好な姿で必死に振り絞られる声の数々は、しっかりと僕にも届いて、会場にいたお客さんのほとんどにも届いていました。 おそらく『金字塔』や『太陽』などの初期作では、中村一義自身の”ここにいる”という呟きを何とかして周りの近しい人達に届けようとしていたんじゃないかなと思います。それは同時に、”ここにいる”という事を確かめることにも繋がっていたんだろう、と。 そして、デビューから15年が経ち、先輩にも後輩にも盟友にもファンにも恵まれた彼がこの日歌った「ここにいる」は、そんな呟きとは明らかに質が変わっていました。

中村一義の叫び。 おそらく彼は無理をしている。

ただ、無理をしてでも届けたい”ここにいない誰か”が、きっと彼の中で明確に見えているんだろうなぁ、というのを強く感じました。

「ここにいるあなた」から、「ここにいない誰か」へ。 その変化には、ある種の強さと覚悟が必要です。仲間と共にその強さと覚悟を得た中村一義のあの満面の笑みは、これからもまだ広がっていく「誰か」との旅の始まりへの祝福だったんだろうな、と思いました。

僕としては、青春が終わって、また始まったような、そんな感慨深いライブでした。誘ってくれた友人に感謝です。