『ぐちゃぐちゃ』のこと。

さて、『金星』と『色あせてカラフル』のことを書いておいて、4/22(土)公開のトリウッドスタジオプロジェクト最新作『ぐちゃぐちゃ』のことを書かないのもどうだろうか、と思いまして、まだ公開されてない(3月に1週間先行上映はやりましたが)ので総括的なことは書けませんが、企画から撮影までのことをつらつら書いていこうかと思います。

まず、今回が11作品目になるんですが、大きく変わったことがありまして、まぁこちらの問題なんでここで書くようなことでもないんですが、これまで10作品で現場のプロデューサーを務めてきたTVAの日根野先生が現場を離れ、映画学科の日原先生とマスコミ映像学科の成島先生が入ることになりました。11年目にしてプロデューサー陣の顔触れが少し変わりました。 あと、これは日原Pの希望もあったんですが、撮影時期がこれまでの春(当初は3月末、その後『金星』以降は5月中旬)から秋(10月頃)に変更となり、その分全体のスケジュールも変わりました。

ということで、企画開発は2016年の2月頃からスタート。 これまでのトリスタと同じように、最初監督の山岸が出してきた企画は今回映画になった内容とは違うものでした。違うもの、というか、一つは自身の家族観を表したもの、もう一つが世の中の風潮に対する意見表明みたいなもの、という感じで、企画ではなくあくまで「考え」をまとめた、という感じでした。 なので、どちらを映画にしたいのか?という話を何週かして、後者を選ぶことになり、その後者もまぁ最初はかなり曖昧なものだったので、それを具体化していく、という作業がほとんどだったように思います。とにかく山岸は、自分で決める、ということが苦手な人間なので、決めるまでの手助けをとことんやった、という印象です。 その結果、意見表明的な部分は後ろに引っ込み、自身の感情や思いみたいなものが前に出てきて、今の形になりました。山岸の企画を制作すると決めたのが確か5月中旬ごろ、そこから撮影準備に入りました。

で、この撮影準備が歴代のトリスタ作品の中でもなかなかハードでして、というのも、まず撮影場所が多い。しかもお店とかそういう所ばっかり。しまいにはマジックミラー号が出てきますからね。これらのロケハンや交渉、準備が結構大変でした。 しかも、スタッフである学生達はこの間、並行して卒業制作の準備と撮影もやってまして、他の実習の作品制作なんかもあり、極端に打ち合わせの回数は少なかったし、スタッフが動ける時間も少なかったので、相当バタバタした状態でクランクインを迎えました。何せ、今だから言えますが、インする時点で決まってないロケ地があったりしましたからね。トリスタでは久々の事態でした。 ただ、お借りしたお店の方などとても協力的な方々にも恵まれて、何とか全ての撮影を終わらせることが出来たので、スタッフ達の火事場のクソ力が発揮された、という感じかなと思います。マジックミラー号も、関係者の方のご協力もあり、本物をお借りすることが出来ました。

キャスティングの方は、これはまぁいつもの通りと言いますか、監督や僕らがうんうん悩むお陰でまたも胃がキリキリするような状況になりましたが、主演の紗弓役は前回の『色あせてカラフル』でお世話になった方からのご紹介で石崎なつみさんに決定し、その他の役も僕らの希望が叶う形で決まっていきました。 監督が脚本を書いている時点から頭の中にあったという清水役の森下能幸さん。僕が学生時代に観て大好きになった『Helpless』にもご出演されている斉藤陽一郎さん。大槻さんからの希望でお願いした、見た目と役柄のギャップがバッチリな板橋駿谷さん。日原Pと監督がご出演を熱望した田村健太郎さん。マジックミラー号でお世話になったSODの方からご紹介頂き、「本人役」を快く引き受けて下さった範田紗々さんなど、他のキャストの皆さんも含めて、ホントに素敵な方々にご出演頂くことが出来ました。

特に主演の石崎さんは、感情や考えをあまり表に出さない人間である紗弓をしっかり演じる為に、そのモデルとも言える山岸としっかりとコミュケーションを取り、テストや本番が終わるとその都度また確認をして、って感じで、紗弓という人物に真摯に向かってらっしゃる姿がとても印象的でした。撮影の途中で日原Pが「だんだん石崎さんが山岸に見えてきた」と言っていたんですが、そのぐらい山岸のことも理解しようとして下さっているのが嬉しかったです。石崎さんの色んな面が観られる作品に仕上がったんじゃないかと思います。

そんな山岸は、撮影中もそうだし、その後のポスプロや宣伝でもそうなんですが、とにかく決められない。決めるには決めるんだけど、そこに自信が持てないから、決めた後も「こっちの方が良かったのでは…」と悩んじゃうんですよね。もちろん最初の頃からは少しずつ変わってきましたが、これはもう彼女が持つ性質の一つなんだろうなぁと思います。 象徴的だったのは映画のタイトルで、まず企画開発の時点ではタイトルが付いておらず、僕らプロデューサー陣との話し合いの末に仮タイトルとして『紗弓、はじめての冒険』と付け、撮影に臨みました(劇中に出てくる”あるもの”を踏まえたタイトルでした)。その後、編集作業を進める中で、山岸からタイトルを別のものにしたい、という希望が出て、その理由はイマイチはっきりしなかったんですが、確かに完成に近づいていく作品を観るとちょっとこのタイトルとは合わないよね、という話にもなり、正式なタイトルについての打ち合わせをするんですが、ホントに決まんない。結局3~4週間ぐらいはかかったんじゃないかな、決まるまで。 「この映画にはどういう作品なのか?」とか、「この映画を一言で表すとどうなる?」というのを改めて山岸と話し、彼女から出てきたのが今のタイトルになっている『ぐちゃぐちゃ』という言葉でした。自身の中の「ぐちゃぐちゃ」とした形の定まらない気持ちをそのままぶつけたいと思える相手が現れて、その相手にぶつけてもいいんだろうかとまたぐちゃぐちゃ悩み、最終的にはぶつけてみるお話。それは紛れもなく、山岸自身や主人公の紗弓、この映画そのものを表す言葉でした。

<”ぐちゃぐちゃ”な気持ちのままでもいいじゃん。別にあなたには迷惑かけないから、こっちはこっちでやらせて下さい。>というような、山岸が決められない自分、うだうだしちゃう自分自身を肯定するような作品に、タイトルも含めてなったのかなと思います。そしてそれはおそらく、色んな人が多かれ少なかれ抱えてることなんだろうな、とも。

4/22(土)より、下北沢トリウッドで公開です。初日の13時の回上映後には石崎さん、田村さん、範田さん、山岸による舞台挨拶もあります。上に書いてることを読むとちょっと重く感じるかもしれませんが、中身は結構笑えるシーンもあり、胸キュンポイントもありで楽しめると思います。僕も劇場にいるので、ぜひご来場下さいませ。