本を読むのが苦手でして。好きなんですけどね、本は。

元々読むのが遅い人間で、というのも、例えば「やめたがらなかった」って言葉があるじゃないですか。これを見つけるとなぜか、「やめたい→やめたがる→やめたがらない」って感じで分解っちゅーか順を追わないとちゃんと頭に入ってこないんですよ。「○○とは言えないこともなかった」とかもそう。もちろん、さっと読み流すこともあるんですけど、なんかこう、しっかり理解してない感じがして嫌なんです。モノになってないというか。なので、引っかかりを解きながら読むんで、遅くなっちゃうわけです。

ほんで、読むのが遅いと時間がかかる。その日のうちに全部読めないことも多い。次の日(もしくは何日か後)に読み始めると、それまでの部分を忘れちゃってたりする。面倒になって読むのをやめる。で、また忘れる。 というのを繰り返しちゃうんで、苦手なんです、読書。小説とかだと短編ばっかり読んじゃったり。

そんな私が、面白さのあまり3日ほどでバーっと読んでしまったのが、「誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち」です。

誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち スティーヴン・ウィット(著)、関美和(翻訳) http://amzn.asia/eqzIZGQ

年末年始に帰省して、帰りの飛行機の時間まで結構あったんで、札幌駅の本屋さんで暇つぶしになるかなと思って購入。ちょっと前にネットで見かけていて、本棚眺めてたら目に入ったんで、これで良いかな、と軽い気持ちで。 まぁ正直、上記の理由で「途中で読むのやめちゃうかもなぁ」と思って、買うの迷ったんですけども。まぁ新年だし、ご祝儀的感覚で買ってみました。

で、駅にある喫茶店、空港に向かう電車内、搭乗を待つ間(濃霧で15分出発が遅れた、というのもあり)、機内と、ずーっと読んでました。もうね、序盤からすげー面白いのよ。 メインになる人物は3人。音響に関するドイツの研究者と、アメリカの音楽エグゼクティブと、CDプレス工場で働く労働者なんだけど、この3人の人生が全く別々の所からスタートして(当たり前だけど)、少しずつ「音楽」(もっと言うと、「音楽の海賊行為」)をキーワードに交わり始めて、時代の波みたいなものに翻弄されつつ(逆に翻弄しつつ)進んでいく、”物語”になってます。 そう、ノンフィクションなんだけど、色んな人たちの野望とか感情とか関係性とか、そういうものが仔細に描かれていて、エンターテインメントとして読んじゃうんですよ。ある種、結末は予想出来る(まぁ、今の状況が結末、だからね)んだけど、「次どうなるんだ?」と、早く次を読みたくなっちゃう感じ。3人それぞれの話が章立てされて進んでいくのも、その効果を強めてると思います。

だって、まず最初がさ、「mp3の死が宣告」される所から始まるんだから。mp3って言ったら、音楽の海賊行為を語る上では欠かせない圧縮技術なわけで、そのことを知ってるこっちからすると「は?いきなり?」となるわけですよ。で、読み進めると、そこには「規格採用に関する競争」があり(途中、あの有名なVHS vs ベータのこともちょこっと出てくる)、その裏には企業・ビジネスが絡んだ”政治”があり、勝者がいて、敗者がいて、と、もうね、第1章の段階からぐいぐい引き込まれる。 音楽エグゼクティブ(ダグ・モリス)の立身出世と、そこに付随する音楽業界やヒット曲、音楽に関するサービスの変遷も面白いし、CDの工場に勤める寡黙で真面目な男が”世界最強の音楽海賊”になっていく過程にある、仲間たちとの愛憎入り乱れた関係とか、音楽好きはもちろん、そこまでこの手のことに興味がない人でも、すごく面白く読めるんじゃないかと。

読んでる途中で、「こりゃ映画化されるだろうな」と思ってたら、末尾の訳者あとがきに映画化が決まった、って書いてあって、やっぱりなぁ、こんな面白い原作、ほっとかないよなー、って思ったり。映画化の際のキャスティングや、どう脚色するか、なんかを考えながら読むのも楽しいのかなと。

いやー、新年から良い出会いだったわー。 2017年はこういう出会いを増やしていきたいなぁと、(ぼんやりですが)思う次第であります。